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大阪高等裁判所 平成10年(ネ)1295号 判決 1998年11月26日

控訴人

甲野太郎

右訴訟代理人弁護士

筧宗憲

松山秀樹

松本隆行

被控訴人

学校法人甲南学園

右代表者理事

小川守正

右訴訟代理人弁護士

俵正市

小川洋一

坂口行洋

重宗次郎

寺内則雄

苅野年彦

井川一裕

横山耕平

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  訴訟費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  控訴人が被控訴人の設置する甲南大学経営学部教授の地位にあることを確認する。

3  被控訴人は、控訴人に対し、金五〇万〇五二〇円を支払え。

4  被控訴人は、控訴人に対し、平成四年一月二〇日から毎月二〇日限り月額金六六万七五三〇円及び右各金員に対する各支払期から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

5  被控訴人は、控訴人に対し、平成四年三月末日から毎年三月末日限り、年額五三八万四一六二円及び右各金員に対する各支払期から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

6  被控訴人は、控訴人に対し、金五〇〇万円及びこれに対する平成三年四月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

7  被控訴人は、控訴人が甲南大学経営学部教授として職務を行うことを妨害してはならない。

8  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二事案の概要及び争点

一  事案の概要及び争点は、二項に掲げる控訴人の主張のほかは、原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」欄(三頁八行目から三二頁八行目まで)記載のとおり(ただし、文中「原告」とあるを「控訴人」と、「被告」とあるを「被控訴人」と各訂正する。)であるから、これを引用する。

二  控訴人の主張(従前の主張の補充)

1  経営学部教授会の議決の不存在

(一) 被控訴人就業規則、被控訴人大学運営機構に関する規程、同大学経営学部教授会規程及び経営学部人事手続規程の各条項によれば、その教授の解任には選(ママ)任教員の三分の二以上の出席及び右出席者の三分の二以上の多数決による議決が必要であるところ、本件解雇には右要件が具備されていない。

(二) 教授会に人事に関する実質的決定権を認めたのは教員の身分を保障するためである。懲戒に関して教授会に実質的決定権がないとなると、懲戒処分にかこつけて教員の身分を容易に剥(ママ)奪することができ、教員の身分保障は図れなくなる。また、懲戒の相当性の判断にはそれまでの当該教員の学問業績等教学上の問題を考慮しなければならないことも当然である。したがって、教員の懲戒解雇の場合、教授会の最終的決定を要し、この決定は理事長権限を羈束するものである。

(三) 経営学部教授会が控訴人の懲戒問題につき審議しない旨の意思表示をしたことはなく、教授会としては、控訴人の懲戒問題が具体性を帯びた段階で、当然、教授会で審議・決定すべきものと考えていたのである。

2  不当な懲戒解雇

(一) 懲戒処分が有効と認められるためには、懲戒事由の存在に加えて、懲戒の種類・程度が規律違反の種類・程度その他の事情に照らして相当なものでなければならない。そして、解雇は、停職以下の処分とは異なり、当該被用者を職場から排除し、その者に対して決定的な経済的不利益を与える最も重い処分であるから、その選択については特に慎重に行うべきである。本件で被控訴人が控訴人に対してなした懲戒解雇処分は右の観点から不相当に重い処分である。

(二) また、控訴人に対する懲戒委員会の最終的な決議は、その直前に電算機問題がその議題として取り上げられており、その議事進行は極めて意図的であった。すなわち、生協出資金問題において取り上げられた批判の対象は学長等の執行部であったため、被控訴人としては、これにより学校法人として被害を受けたとの自覚がなく、そこで懲戒委員会では控訴人に関する電算機問題について審議した直後に控訴人に対する本件懲戒問題を審議し票決したのであり、本件懲戒につき他事考慮に基づく判断があったことは明らかである。

3  懲戒委員会の不公正な構成

生協出資金問題の懲戒委員会の委員一一名のうち生協理事長経験者は山口賢及び田中昭であり、その理事経験者は滝沢秀樹及び潮海一雄である。そして、生協出資金問題に関してはそれぞれ形式的か否かを問わず、右四名の者が生協理事者として在職中、控訴人がこれまで指摘してきた生協出資金の徴収方法についての問題が存在していた。したがって、右四名の者はこれまで、仮に、特別に個人名を出して批判されていなかったとしても、いつでも批判の対象になりうる立場に客観的に立っていた。右のとおり右四名の者は、生協出資金問題と利害関係がある人物であり、右潮海一雄委員だけが懲戒委員会における決議の際退席したといっても、到底、懲戒委員会の構成上不公正でないとはいえない。

第三証拠

証拠関係は、原審及び当審の各記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人の請求はいずれも理由がなく、棄却すべきものであると判断するが、その理由は、次のとおり訂正、付加、削除するほか、原判決「事実及び理由」の「第三 争点に対する判断」欄(三二頁一〇行目から六三頁一二行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。

1  文中「原告」とあるを「控訴人」と、「被告」とあるを「被控訴人」と各訂正する。

2  三五頁七行目から三七頁四行目までを次のとおり訂正する。

「(1) 前記被控訴人の諸規定に照らせば

<1> 被控訴人の業務に関する最終の決定権限は、すべて理事会にあって教授会にはないこと、<2> 教員の任命は、学長の推薦に基づき理事長が学園名で行うこと(大学運営規程三条)、<3> 経営学部等の教授会は、教員の任命について審議決定し、学部長を通じて、学長に対し、その意見を具申する権限を有すること、<4> 被控訴人の設置する甲南大学(被控訴人大学)の教授の服務も就業規則に定められ、その中で懲戒規定に該当する教員の懲戒については、被控訴人が懲戒委員会に諮って行うこととされていることがそれぞれ明らかである。

(2) 大学運営規程二二条では、教員の解任は、任命の手続に準じて行う旨定められているから、右任命手続と同様に、教授会は教員の解任(懲戒解雇を含む)について意見を具申する権限を有するというべきである。(懲戒解雇の対象となった当該教員の非違行為が右教員の担当する学術的専門分野において、あるいはこれに関連してなされた場合には、教授会において当該教員の非違行為が懲戒解雇に相当するものであるか否かを審議決議し、教授会としての意見を具申すべき必要があると解されるところであり、したがって懲戒解雇の場合も右二二条の規定に基づき、任命の場合に準じて教授会が審議してその結果を学部長を通じて学長に意見を表明することができると解すべきである。)

(3) しかし、被控訴人の大学運営機構に関する規程五条は、『学長は、教授の任命に関し必要があるときは、これを部局長会議又は大学会議に諮問することができる。』と規定しており、これと右の大学運営規程二二条(解任は任命の手続に準ずる)、前記就業規則三六条(懲戒委員会に諮り懲戒する)及び教授会規程二条(教授会は人事に関する事項を審議決定する)を併せ考慮すると、教員任免には教授会の決定を要件とする旨の規程がない本件の場合、教員の任免過程における経営学部教授会の審議決定は、学長からの(任意的)諮問に対する部局長会議及び大学会議の答申と同様に意見具申としての意味を有するにすぎず、教員を任免するための要件ではないというべきである。そして、教員を懲戒解雇する要件としては懲戒委員会に諮ることが規定されているにすぎないのである。」

3  三七頁一〇行目の「しかし、同法において、」を次のとおり訂正する。

「しかし、被控訴人大学の人事に関する大学の自治は、寄付行為の定めるところにより業務決定機関である理事会に委ねられているのであって教授会にはその権限がなく、また学問の自由は各教員に保障されているとはいえ、そのことを根拠に、当然に、教員の解雇については教授会の解任決定が必要かつ有効要件であって、この決定が理事長の前記任免権限を羈束すると結論づけることは到底できないところであり、また右学校教育法において、」

4  三八頁二行目「必要であると解されない以上、」を「要件であると解されない以上、」と、同六行目の「意見徴取を行っており、」を「意見聴取を行なって意見具申の機会を与えており、」と各訂正する。

5  四二頁四行目の「生協出資金」の前に「同教授会は同学部長を通じて」を付加する。

6  四四頁三行目から四行目の「及び一〇号」を削除する。

7  四五頁三行目の「理事長が」の次に「最終決定を行う前に」を付加し、同五行目から六行目の「結果であり、同教授会としての反対意思を示す」を「結果となり、同教授会として、控訴人を懲戒解雇することにつき反対であるとの意思を示す」と、同末行の「同教授会としての意見を表明できなかったものであって、」を「結局、同教授会としては意見を表明し、学長に対して右意見を具申する機会を与えられたものの、結果的には控訴人の懲戒問題について同教授会として意見を表明し得なかったのであり、」と各訂正する。

8  五一頁一一行目から一二行目の「第一五回通常総代会の決議に基づき、二〇口二万円の出資金を要請している。」を「甲南大学における福利厚生事業を発展させるために二〇口二万円の出資金にご協力ください。」と訂正する。

9  五七頁四行目の「これら」の次に「執拗ともいえる右文書送付行為」を付加し、同一〇行目から一一行目の「調査をすることなく生協出資金の徴収方法が詐欺であるとしたこと」を「さしたる調査をすることもなく、生協出資金の徴収方法が故意的要素の存在をその要件とする詐欺であるとして、軽率に前記各行為に及んだこと」と訂正する。

10  六三頁七行目の「経営学部学部長」を「経営学部長」と訂正する。

11  五九頁七行目から九行目までを次のとおり訂正する。

「証拠(<証拠・人証略>)によれば、被控訴人大学の電算機問題及びソフト不正コピー使用問題において控訴人もその調査対象者となっていたこと及びその経過が窺われるが、経営学部電算室調査委員会報告書(<証拠略>)等によって電算機等の購入経過は把握できるものの、右に関連してNECと被控訴人関係者等の間に交わされた文書内容の解釈、その評価等については明らかでないものが存在するといえ、右に摘示した証拠によっても、電算機問題及びソフトコ(ママ)ピー使用問題における控訴人の行為が本件解雇の実質的な理由となったと認めるに足りず、控訴人の本件解雇は他事考慮に基づくものであるとの主張は理由がない。」

12  六三頁末行に改行して次のとおり付加する。

「また、証拠(<証拠略>)によれば、懲戒委員会の審議事項については、委員総数または出席委員の過半数をもって決するとされているところ、懲戒委員会としては出席(潮海一雄退席の後の)委員全員(一一名)が出席のもとに無記名投票した結果、控訴人を懲戒解雇すべきであるとした者が九票、停職にすべきであるとした者が二票であったことが認められ、右によれば控訴人主張の三名の者(山口賢、田中昭、滝沢秀樹)が仮に右懲戒解雇にすべしとの投票をしたとしても、右三票を差し引いても六票の過半数が懲戒解雇にすべしという多数意見であったものと認めることができ、この認定を不当とする特別事情も窺われない。したがって、懲戒委員会の構成が不公正であったから懲戒委員会の懲戒解雇の決定が不当無効ということはできず、控訴人のこの点に関する主張も理由がない。(ママ)

二  結論

以上のとおり、控訴人の請求はいずれも理由がないから、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法六七条、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中田耕三 裁判官 高橋文仲 裁判官 辻本利雄)

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